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衛生講話の部屋

熱中症とその対策について

2024-08-19  《衛生講話の部屋》

1.高温環境下での労働における熱中症

うち死亡者は28人となっている。業種別にみると、死傷者数については、建設業202件、製造業220件となっており、全体の4割がこれら2つの業種で発生している。また死亡者数は、建設業が最も多く、製造業、警備業及び農業が同数で続く。製造業における炉の周辺での作業や炉内の補修作業、給食調理やクリーニングなど屋内で高温や蒸気に暴露される作業でも発生事例がある。被災事例の環境は、必ずしも気温だけでは決まらず、気温が低くても湿度が高い環境は要注意である。また統計的に作業の初日に被災が多く、熱への順化(熱に慣れ,適応すること)の有無が,熱中症の発生リスクに大きく影響することを踏まえて,計画的に熱への順化期間を設けることが重要である。

2.熱中症とは

私たちの体の中では運動や身体の営みによって常に熱が産生されるが、同時に異常な体温変化を抑えるための自律神経を介した効率的な調節機構も備わっている。一つは末梢血管を拡張させ皮膚に多くの血液を分布させて、外気への熱産生を行うということ。もう一つは汗を蒸発させて、気化熱で熱を放出することである。これらのバランスが崩れてしまった結果、体温が著しく上昇し様々な病態を合併した状態を熱中症と言う。

3.熱中症を引き起こす条件

①環境;高温・多湿・風が弱い・輻射源(熱発生源)があるなど。

②身体;心疾患・糖尿病・精神神経疾患・広範囲皮膚疾患を有していると体温調節がうまく働かないと言われている。また心疾患や高血圧の治療に投与されている薬剤や飲酒も自律神経に影響したり,脱水を招くことがある。他、胃腸障害に罹患している人・高齢者や肥満・過度の着衣・暑さに慣れていない人・運動不足の人などがあてはまる。

4.高温環境下での予防策

1)暑さ指数(WBGT)の把握

日本産業規格に適合したWBGT指数計による随時把握を基本とする。直射日光下における作業、炉等の熱源近くでの作業、冷房設備がなく風通しの悪い屋内における作業については、実測することが必要。

2)暑さ指数(WBGT)の評価

WBGTは別紙表1のWBGT基準値に照らして評価し、熱中症リスクを正しく見積もること。基準値を超えるか超える恐れのある場合には、WBGTの低減を始め、3)以下の対策を徹底する。

3)作業環境管理

  • ① 発熱体と高温環境下での作業場所の間に熱を遮ることのできる遮蔽物等を設けること。屋外作業においてはできるだけ直射日光を遮ることの出来る簡易な屋根等を設けること。
  • ② 作業場所に適度な通風や冷房を行うための設備を設けること。また作業中は、適宜 散水等を行うこと。
  • ③ 作業場所に氷・冷たいおしぼり、作業場所の近隣に水風呂・シャワー等身体を適度に冷やすことの出来る物品・設備等を設けること。
  • ④ 作業場所の近隣に冷房室や日陰などの涼しい場所を設けること。休憩場所は臥床する事の出来る広さを確保すること。
  • ⑤ 作業場所に水分や塩分が容易に補給出来るようにすること。

4)作業管理

①作業時間の短縮

WBGT基準値に応じた休憩等を行うこと。WBGTが基準値を大幅に超える場合、原則として作業を行わない。大幅に超える場所で、やむを得ず作業を行う場合は、単独作業を控え、休憩時間を長めに設定する。また管理者は作業中労働者の心拍数・体温・尿回数・色などの身体状況、水分・塩分の摂取状況を定期的に確認する。特に熱中症では体温上昇と脱水による心拍数上昇とがあるため、作業前の心拍数と体温をあらかじめ測定しておき、作業中の心拍数と体温と比較すれば、熱中症の発症の予見が可能である。尿回数が少ない、尿の色が普段より濃い状態は、体内の水分が不足していることを意味する。

②暑熱順化への対応 

職場での暑熱順化は暑さが本格化する前に作業時間を徐々に伸ばして調整し、発汗しやすい服装で作業負荷をかけ、7日以上かけて実施する。また、4日後には暑熱順化が喪失することを踏まえ、4日以上の休みを挟む場合は、暑熱順化期間の延長や、追加の暑熱順化を行う。

③水分と塩分の摂取 

喉の渇きの自覚症状が生じた時点で脱水が進んでいることが多いため、3~5%の糖分と0.2~0.3%の塩分を含んだ5~10℃の水を作業30分前に500ml以上、作業中は20分毎に最低200mlずつは取る。ただしスポーツドリンクなど運動選手用の飲料は糖分過多なので好ましくない。忘れてならないのは,自覚症状の有無に関わらず,水分・塩分の摂取を積極的に行うということ。

④プレクーリング

WBGTが高い暑熱環境下で、作業強度を下げたり通気性の良い衣服を採用することが困難な作業においては、作業開始前にあらかじめ深部体温を下げ、作業中の体温上昇を抑えるプレクーリングも検討する。

5)健康管理

①作業前後の労働者の健康状態の確認

作業開始前に労働者の健康状態を確認すること。また、あらかじめ作業場所を確認しておき、作業中は巡視を頻繁に行い、声をかけるなどして労働者の健康状態を確認すること。複数の労働者が働く作業においては、お互いの健康状態について留意するようにさせること。

②日常の健康管理

食事を3食摂ることが熱中症予防となる。食事の中の水分量は想像よりも多いものである。作業当日の朝食は時間が無くても決して抜いてはならない。
前夜の睡眠不足は自律神経のバランスを不安定にさせる。自律神経によって人間は体温調節するのであるから、体温調節が上手くいかないことで脱水をきたす。前夜は最低6時間以上の睡眠を取る。
前夜に過度の飲酒をすると、夜間に血管内脱水をきたす。酒を飲みすぎると夜中に喉が渇くのはそのせいである。また眠りが浅くなるため、睡眠不足の原因ともなる。前夜の飲酒はなるべく控え、せいぜい1合までとする。
前夜の就寝中の室温に留意する。就寝中に汗をびっしょりかくような室温では、その時点で脱水が進んでいる。末梢循環が悪化しない程度に就寝中の室温は下げておく。エアコンを使わなくとも扇風機で空気を循環させるだけでも良い。
発熱しているような感染症や、下痢をおこす腸炎などは脱水の原因となり、熱中症のリスクが高まる。その場合は作業の配置換えを行う。
肥満を解消する。皮下脂肪が厚いと、皮膚を介しての体温調節が困難となる。ぽっちゃりしている人が暑くもないときでも汗っかきなのはそのせいである。常日頃から体重管理をおこなっておく。

5. 実際の症状と重症度分類

Ⅰ度;めまい・失神(立ちくらみの状態で、脳への血流が瞬間的に不十分になっています)、筋肉痛・筋肉の硬直(発汗に伴う塩分欠乏によって生じます)、大量の発汗

Ⅱ度;頭痛・気分不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感
Ⅲ度;意識障害・痙攣・手足の運動障害(呼びかけや刺激への反応がおかしい、体にガクガクとひきつけがある、まっすぐ走れない、歩けないなど)、高体温(体に触ると熱いという感触)

6. 熱中症を疑ったら

 熱中症を疑った時には、死に直面した緊急事態であることをまず認識し、重症の場合は救急隊への連絡のみならず現場ですぐに体を冷やし始めることが必要である。

① 涼しい環境への避難

風通しの良い日陰や、出来ればクーラーの効いている室内等に避難させる。

② 脱衣と冷却

衣服を脱がせて、体から熱の放散を助ける。露出させた皮膚に水をかけて、うちわや扇風機などであおぐことにより体を冷やす。氷嚢などがあれば、それを頸部・腋窩部(脇の下)・鼡径部(大腿の付け根)に当てて皮膚の直下を流れている血液を冷やす。

③ 水分・塩分の補給

冷たい飲み物は胃の表面で熱を奪う。重症度分類Ⅰ~Ⅲ度であっても応答が明瞭で意識がはっきりしているなら水分の経口接取は可能だが、呼びかけや刺激に対する反応がおかしいとか意識障害がある時には、誤って気道に流れ込む危険性があるので経口で水分を入れるのは禁物である。また吐き気を訴えたり、吐いている時は脱水が進行しているため点滴が必要である。

つまりⅠ度の症状があれば、すぐに涼しい場所に移して体を冷やすこと・水分を与えることが必要である。そして誰かがそばに付き添って見守り、改善しない場合や悪化する場合は病院へ搬送する。Ⅱ度やⅢ度の症状であればすぐに病院へ搬送する。救急連絡網をあらかじめ作成し、また搬送する病院の所在地・連絡先を把握しておく。