今後の職場における熱中症予防対策―重篤化防止手順作成の義務化
1. 職場における熱中症による労働災害発生状況
2024年の職場における熱中症の発生件数は、休業4日以上の死傷者数は、1,195人(2023年1,045人) うち死亡者は30人(2023年28人)となっている。業種別にみると、死傷者数については、建設業、製造業、運送業の順となっている。また死亡者数は、建設業が最も多く、製造業、警備業の順である。
月別の発生状況は、7月8月で全体の8割を占める。一方で気温が上昇し始める5月6月にも死傷者は見られる。この時期はまだ、労働者の暑熱順化が進んでいないことから、本格的に暑くなる前の早い段階から熱中症予防対策を行うことが重要である。
時間帯別で見ると、死傷災害は15時をピークに夕方にかけて減少している。死亡災害については、減少せず、17時台にピークを迎えている。これは熱中症の症状を見逃したり、熱中症の症状がある者に対して適切に対処出来なかった結果、熱中症が重症化し、死亡に至っている可能性が推察される。また、作業終了後に帰宅した後、体調が悪化して病院へ搬送されるケースも散見されるので、日中の作業中に異変があった場合などには、帰宅後の体調変化にも注意を要する。
年齢別の発生状況について、全体の半数以上が50歳以上で発生していることから、高年齢労働者の中には、基礎疾患を有しているなど熱中症リスクの高い方が多いので留意が必要。
2. 本年夏に向けた職場における熱中症対策と改正労働安全衛生規則の施行
厚労省は、ここ数年の死亡災害の多発を受け、熱中症の重症化を防止し、死亡災害に歯止めをかけるための対策の強化に向けた検討を行い、2020年から2023年までに発生した死亡事例について分析している。その結果、
- ① 熱中症の初期症状を放置したところ症状が進行し重篤化に至ったケース
- ② 熱中症を発症した場合の医療機関への搬送を含めた対応手順について定めがなく、現場での初動が遅れ重篤化に至ったケース
が多く見られる。
その対応として現場で取るべき重点項目は
- 1) 可能な限り早期に、異常が認められる者を発見すること
- 2) 異常が認められる者に対し、「暑熱作業からの早期離脱」「早期の身体冷却」「有効な休憩設備の利用」「躊躇ない医療機関への搬送」を実施すること
であると結論づけた。
「熱中症を発症した場合に重篤化に至らせないための対策」として、WBGT 28度または気温31度以上の作業環境において行われる作業で、継続して1時間以上または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる、熱中症のおそれのある作業を行う際には
- ① 熱中症のおそれがある作業者の早期発見のための体制整備
- ② 重篤化を防止するための措置の実施手順の作成
- ③ ①②の関係作業者への周知
を罰則付きで事業者に義務付けることを内容とする労働安全衛生規則の改正がおこなわれ、6月1日に改正労働安全衛生規則が施行された。
3. 2025年 STOP!熱中症クールワークキャンペーン
改正省令の施行を踏まえ、以下の3点を重点項目としている
- ① WBGTの把握とその値に応じた熱中症予防対策の実施する
- ② 熱中症のおそれのある労働者を早期に見つけ、身体冷却や医療機関への搬送等適切な措置が出来るための体制整備等を行う
- ③ 糖尿病・高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する者に対して医師等の意見を踏まえた配慮を行う
昨年の死亡災害は、事業場においてWBGTを把握し、活用していなかった事例、熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有していることが明らかな事例が多く見られ、2023年のクールワークキャンペーンに引き続き①と③は取り組みを求められている。
4.熱中症警戒アラート
昨年施行された改正気候変動法に基づき、「熱中症特別警戒アラート」「熱中症警戒アラート」が発令される。「熱中症警戒アラート」は昨年は1700回発令され、一昨年の1.4倍に達している。府県予報区内のいずれかのWBGT情報提供地点における日最高WBGTが33に達すると予測される場合に発令される。本年から新たに発令される「熱中症特別警戒アラート」は、都道府県内において全てのWBGT情報提供地点における翌日の日最高WBGTが35に達すると予測される場合に発令される。「熱中症警戒アラート」は前日17時及び当日5時頃、「熱中症特別警戒アラート」は前日14時に発表されるので、予めアラートの発令状況を確認した上で、当日又は翌日の作業計画を立てることも重要である。
特にキャンペーンの重点取組期間(7月)中に事業者において実施する項目は、
- ① 作業環境管理
WBGTの低減対策を行った設備対策について、WBGTの低減効果を再確認し、必要に応じ追加対策を行う - ② 作業管理
1) 期間中に梅雨明けを迎える地域が多く、急激なWBGTの上昇が想定されるが、その場合は、労働者の暑熱順化が出来ていないことから、プログラムに沿って暑熱順化を行うと共に、WBGTに応じた作業の中断等を徹底する。
2) 水分及び塩分の積極的な摂取や熱中症予防管理者等による確認の徹底を図る。 - ③ 健康管理
当日の朝食の未摂取、睡眠不足、体調不良、前日の多量の飲酒、暑熱順化の不足等について、作業開始前に確認するとともに、巡視の頻度を増やす。 - ④ 労働衛生教育
期間中は熱中症のリスクが高まっていることを含め、重点的な教育を行う。 - ⑤ 異常時の措置
熱中症予防管理者を選任し職場における熱中症予防対策に係る必要な業務を行わせることに加え、体調不良の者を休憩させる場合は、状態の把握が容易に行えるように配慮し、事前に周知されている担当者に連絡を行い、あらかじめ定められた措置の実施手順に従い対処すること。なお、判断に迷う場合は、#7119を活用することも有効。